なろう系小説から現代人の望みを考えてみるブログ

なろう系小説は現実逃避ツールなの?現代はそこまで不幸な世の中なの?小説家になろうから現在人の望みは何なのかを考えてみるブログです。

『異世界食堂』の魅力と罠

2017年夏期にアニメ化される『異世界食堂』。

 

作品自体はなろうで2013年から連載している。

 

今回のアニメ化に際し、人気の秘密、魅力、そして読むときの守らなければいけない注意点を語っていこうと思う。

 

まず、概要説明すると

毎回出てくる洋食屋のおっちゃんは普通の人である。

こんな設定の物語でよくあるパターンとして、異世界に迷い込み料理がうまいと評判を聞きつけられて、王宮に召し抱えられ、王の側近として内政チートを起こし国を豊かにしていくというのが異世界ものあるあるだ。

 

しかし、この『異世界食堂』に毎回出てくるキャラクターは普通のおっちゃんのままで、剣も振らず、国に関わることもない。というより店からすらあまり出ない本当にただのオーナーシェフだ。

 

異世界要素はどこにあるかと言われると、扉が異世界に繋がっていることである。

 

「扉を開けたら異世界でした。ただし、中は普通の洋食屋。異世界なのは扉の前です」

 

漫画の帯を付けるとしたらこんな感じだろう。

週に1回「ドヨウの日」に異世界の住人が現代日本の一般的な洋食屋に入り込んでお客として舌鼓を打ち満足し、扉から異世界に帰って行く。

あらすじとして書くとただこれだけの物語であるがとても面白い。

 

 

異世界食堂』の魅力

 

魅力はやはり料理だろう。

とても美味しそうに描かれて客が満足していく。

小説の食べ物紹介文のイメージをハンバーガーで例えるなら以下の様な感じだろうか?

 

「俺が頼んだのはハンバーガーなる食べ物だった。丸く中央が膨らんだパンを横に半分に切り、中に肉の塊と厚めに切ったオラニエ、酸味を付けた緑色の野菜が挟んであるという簡単な料理だ。

 

しかし、とりわけ目を引くのが赤いどろっとしたソースだ。恐らくマルメットを原料にしたのだろうがそのアイデアだけで商品にできる画期的なものだ。酸味とコクのあるマルメットはソースにすることで料理のバリエーションが飛躍的に増えるだろう。

 

一口囓ってみる。

まず、普段食べている硬い黒パンとは全く違う、白パンの柔らかさと甘さ、バターの香りに驚く。さらに噛み進めていくと歯が肉に当たり、その瞬間中から肉汁が、、、、、

 

、、、、、これは神の食べ物か、、、、」

 

この様な形で異世界に住んでいる住人が食べなれている普段あまり美味しくない食べ物とのギャップに驚きながら、こちらではよく食べられている普通に美味しい料理を解説していく。

料理物であると共に、いわゆるカルチャーギャップものである点がこの物語の醍醐味である。

 

異世界食堂』の仕組みが上手い

実は『異世界食堂』はこれまでのカルチャーギャップ物、料理物の欠点の多くをクリアできる仕組みが整っている。

元来、料理物に出てくる食べ物には、我々が日常的に食べている食べ物を超える美味しさが必要だった。

しかし、この手法の多くが二つの問題点を内包している。

 

一つ、その料理は本当に美味しいのか?

二つ、仮に美味しかったとして文章や絵で表現できるか?

 

異世界食堂』では出しているメニューが近くの洋食屋で出されている料理ばかりなので、一般的な料理の表現すれば良く、通常以上の美味しさを読者に想像させる必要は無い。ある程度美味しい事は読者みんなが分かっている。

 

さらに異世界の住人の多くが初めて見る食べ物を前にして心の中で解説していくので(上記の例で出した緑色の酢漬けはピクルスなのだが)正式名称が出てこない事もある。

逆に言えば、登場人物のありのままの見た目や感想を読むことになり、読者である我々が普段当たり前に食べている洋食を見ても新しい発見をすることになる。

 

最近の料理物(特に漫画)になると奇天烈な料理や、最高峰の食べ物を出すのはやめて、普段食べている食べ物をとても美味しそうに食べるという作品が流行っているが、こういった作品の問題点として挙げるのであればこのひと言に尽きるだろう。

 

「リアクションが大げさ」

 

しかし『異世界食堂』での普通の洋食は異世界の登場人物が普段は食べたことの無い豪華な食べ物として扱われる。

そこには感想が大げさだという物語的な無理が無い。

 

さらに毎回食べ物を食べる登場人物が変わる1話完結型(たまに続き物)になっている点も大きい。

これにより、カルチャーギャップが毎回新鮮に起こせる上、食べ物の感想の度合いがインフレを起こす心配も無い。

 

この様に『異世界食堂』は素晴らしい仕組みにより作られている。

欠点としては毎回毎回主人公が変わるので作者が1から新しい話を作らなくてはいけないということか。

しかし、扉に入って料理を食べて帰って行くというシンプルな物語の骨幹が存在しているため、応用もしやすく、そのため100話以上続けられるのだろう。

 

異世界食堂』最大の魅力と注意点

ここまで色々な要素を書いているが、『異世界食堂』の魅力で大きなものの一つは洋食を通してキャラクターの人生が垣間見れる部分だろう。

 

ある時には止むにやまれず扉に入り込んだり、人生の重要な岐路に差し掛かっていたりとそんな日常を覗き込む。

 

テレビ番組などであなたの思い出のメニューは何ですか?

なんて企画を見ることがあるが、それをリアルタイムで、何かが起こっている当日の状況を見ている気分になれる。

 

このような、人生の物語が描かれている『異世界食堂』は各話を読み終える毎にほっとしたり、これから頑張ろうという気持ちにさせられる。

 

そしてこの『異世界食堂』には最大の魅力が二つあると私は思っている。

一つ目はなろう民みんな大好き平和な世界。

二つ目は「自身の好き」を持っていること。

 

一つ目の平和な世界とは日常系などに代表される争いの無い世界、みんなが平等な世界であることだ。

異世界食堂』に来るお客は人間、将軍、名のある冒険家、羽の生えたフェアリー、角を持っている魔族、鬼、神に近い存在など多岐に渡る。

その誰もが店主にかかれば平等にお客として扱われる。お客同士で世俗(異世界)の事情を無視して単なるお客同士として交流するのが流れの一つになっている。

 

ある意味でみんな平等な優しい世界が作り上げられている。

美味しい食べ物にはそんな効果もあるのかもしれない。

 

そして何よりも重要なのが、二つ目のお客はそれぞれ好きなメニューかあるということだろう。

昨今若者の〇〇離れなどと言われ大衆文化の広がりが弱くなりつつある。情報化の波に飲まれ悪い話も拡散されることで何か一つのことを信じられなくなっているという方も多いかと思う。

 

そんな世の中ではあるが、「異世界食堂」のキャラクターは

自分自身はこの食べ物が大好きである。

他のどんな食べ物を食べたとしても異世界食堂の中で一番美味しいのは自身の好きな食べ物だということは譲れない。

という立場である。

こんな「自身の好き」に自信を持っているということに憧れを抱くのではないだろうか。

 

この物語ではこのような憧れるに値する考えを持つ人々が数多く出てくる。

 

この文章を読んでいるあなたは「私の好きなものは○○だ」と自信を持って言い切ることが出来るだろうか?

もちろん食べ物でなくても構わない。

 

幸せや本人の望みとは世界を救うなどという崇高なものでは無く、意外と身近なものでいいのかもしれない。

 

 

最後に「異世界食堂」の欠点というか、読む上での注意点を書いておこう。

 

お腹がすいている時に読んではいけない。

 

腹八分目な時に読んだとしても、食欲が刺激されついつい食べ物に手が伸びてしまう。

これが「異世界食堂」の欠点であり、作品全体を通して仕掛けられた罠であるからだ。